特許権侵害の判定において、よく用いられる判定原則は、「全面覆蓋原則」と「均等論」がある。「全面覆蓋原則」とは、被疑侵害製品又は方法が対象特許の請求項に記載の技術的特徴を「全面覆蓋」(全て含む)ことを指す。「全面覆蓋原則」による判定が明らかであり、理解しやすい。一方、均等論による判定において、技術的特徴が「均等」であるか否かを判断する必要がある。また、「均等」であるか否かの境界が明らかではないため、ある程度に主観的である。よって、均等論による侵害判定が通常難しいと思われる。
侵害予防調査(FTO)、重要特許の保護範囲分析、特許権行使、特許出願書類作成などの実務において、特許権の実際の保護範囲を検討する必要な場合が多いので、特許権の保護範囲を正確に判断するために、均等論の適用条件と判断基準をなるべく精確に把握することは重要である。
2019年1月1日から、最高人民法院知的財産権法廷は全国範囲の特許などの技術類知的財産権及び独占に関わる上訴事件を統括審理するようになり、「 均等侵害」の判定で用いる裁判基準が更に統一且つ明確にされた。本稿では、最高人民法院知的財産権法廷による均等侵害の判定に関わる裁判要旨から、均等侵害の判定原則に関わる最新動向を分析してみる 1。
一、「意図的に排除」規則が均等論の適用に対する制限 2
対象特許が「ZL201420474545.1」であり、争点が「被疑侵害製品の技術的特徴dが対象特許の請求項1の技術的特徴Dと同等(均等)するか否か(技術的特徴d:フィクスチャトレイの両側に、PCBのエッジをクランプするためのサイドプッシュプル装置が移動可能に取り付けられている。技術的特徴D:フィクスチャトレイの各エッジに、PCB ボードのエッジをクランプするためのサイドプッシュプル装置が移動可能に取り付けられている。)」ということである。
本件において、被疑侵害製品の技術的特徴dと対象特許の技術的特徴Dとが均等になるかを判断する際のポイントとして、「当業者が特許請求の範囲、明細書及び図面を読み込んだ後、『特許権者又は特許出願人がある技術用語を意図的に強調し、特定の技術案を排除している』と思うようになるか」を判断することである。
対象特許の技術的特徴D「フィクスチャトレイの各エッジに、PCB ボードのエッジをクランプするためのサイドプッシュプル装置が移動可能に取り付けられている。」には、「各エッジ」を強調されており、明細書にも、当該技術案による「安定したクランプ」の技術的効果が強調された。したがって、当業者が特許請求の範囲と明細書を読み込んでから、権利者が出願した際に被疑侵害製品の技術的特徴d「フィクスチャトレイの両側に、PCBのエッジをクランプするためのサイドプッシュプル装置が移動可能に取り付けられている」を排除する意図があると理解することができる。よって、当該技術案が均等な理由で保護範囲内であると認定するものではない。
即ち、被疑侵害製品の技術的特徴dは対象特許の技術的特徴Dと同一でも均等でもないため、対象特許の保護範囲外である。
二、「明確に知っている」技術案が均等侵害の判断に対する影響 3
対象特許が「ZL201610201500.0」であり、争点は「被疑侵害製品(ガソリンエンジン搭載のブロードバンドトリマー)が対象特許(電動ヘッジトリマー)を均等侵害することになるか否か」ということである。
最高人民法院の意見によると、特許権者が特許出願書類を作成した際に、関連技術案を明確に知っているが、それを特許請求の範囲に入れなかった場合、侵害訴訟において均等論により当該技術案を保護範囲に含むことを改めて主張してはならない。
本件において、対象特許の名称(電動ヘッジトリマー)、明細書及び請求項に記載の内容(例えば、背景技術に言い及ばれた「電動はさみとガソリンエンジンはさみ」、発明の内容に記載の「環境に優しく、無公害」)の何れから見ても、「特許権者が特許請求の範囲と明細書を作成した際に、従来技術にモーター駆動とガソリンエンジン駆動の二つの方法が存在することを既に明確に知っているが、環境にやさしい効果を実現するために、特許権者がガソリンエンジン駆動のヘッジトリマーの技術案を保護範囲に入れなかった。」ことがわかる。
したがって、被疑侵害製品が対象特許の保護範囲内になるか否かを判断した際に、ガソリンエンジンとモーター駆動とが均等な技術的特徴にならないと認定した。
三、まとめと示唆
特許権の保護範囲を確認する際に、特許権者の利益を十分に保護するとともに、特許請求の範囲の公示作用と社会公衆の特許文書に対する信頼を守り、特許権者と社会公衆の利益のバランスを取る必要がある。均等か否かの判定に関わる場合、下記の最新の裁判要旨に従う。
「意図的に排除」:当業者は特許請求の範囲、明細書を読み込んだ後、特許権者又は特許出願人がある技術用語を意図的に強調し、特定の技術案を「意図的に排除」していると思うようになる場合、均等論により排除された技術案を改めて特許権の保護範囲に含んではならない。
「明確に知っている」:特許権者が特許出願書類を作成した際に、「明確に知っている」技術案を特許請求の範囲に入れなかった。また、当業者は特許請求の範囲、明細書を読み込んだ後、権利者が保護範囲に入れなかった当該技術案に対する保護を明らかに求めていないことを判断した場合、通常、均等論により当該技術案を改めて特許権の保護範囲に含んではならない。
上記「意図的に排除」と「明確に知っている」の二つの要旨は一定の共通なところがある。この両者とも、特許の保護範囲が特許請求の範囲に準じ、均等論を濫用して保護範囲を広げることをしてはならない、特に特許出願書類を作成する際に、請求項の技術案を明確に知っているが意図的に排除した場合、均等論により当該技術案を改めて特許権の保護範囲に含んではならない。
Footnotes
1 https://enipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-1787.html
2 「(2020)最高法知民終1310号」
3 「(2021)最高法知民終192号」
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