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27 August 2024
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セキュリティクリアランスと重要経済安保情報保護活用法の概要を解説

重要経済安保情報保護活用法は、正式名称を「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(令和6年法律第27号)」といい、経済安全保障&
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 重要経済安保情報保護活用法は、正式名称を「 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(令和6年法律第27号)」といい、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を創設する法律です。2024年5月10日に成立し、2025年5月17日までの政令で定める日から施行されます。

 セキュリティ・クリアランス制度とは、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報を、当該情報に対してアクセスする必要がある者のうち、当該情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認した者の中で取り扱うとする制度です。
 本記事では、重要経済安保情報保護活用法とセキュリティ・クリアランス制度について、概要と企業に求められる対応を解説します。

1 重要経済安保情報保護活用法とセキュリティ・クリアランス制度の概要

 重要経済安保情報保護活用法は、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を創設する法律です。
 セキュリティ・クリアランス制度とは、 国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報(Classified Information)を、当該情報に対してアクセスする必要がある者のうち、当該情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認した者の中で取り扱うとする制度です。

 セキュリティ・クリアランス制度は、大きく分けて、 ①情報指定のルール、 ②情報の管理・提供ルール、 ③罰則で構成されます(下図参照)。

セキュリティ・クリアランス制度の概要

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出典:内閣官房「 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(2024年2月27日)13頁

 まず、行政機関が、①行政機関が保有する重要インフラや重要な物資のサプライチェーンに関する一定の機微な情報を 重要経済安保情報(下記3-1参照)に指定します。

 ②民間事業者がその重要経済安保情報の提供を受けるためには、当該行政機関からその重要経済安保情報を提供する必要があると認められ、かつ、一定の基準を満たす民間事業者( 適合事業者(下記4-2参照))として行政機関から認定を受けたうえで当該行政機関と契約を締結する必要があります。また、当該民間事業者においてその重要経済安保情報を取り扱う従業者は 適性評価(下記6参照)によって重要経済安保情報を漏らすおそれがないと認められた者に限られます。

 適合事業者の認定は事業者に対するクリアランス(Facility Security Clearance)、適性評価は個人に対するクリアランス(Personnel Security Clearance)と位置付けられ、民間事業者が重要経済安保情報の提供を受け、その従業者に取り扱わせるためにはこれらのクリアランスを取得する必要があります。

事業者と個人に対するクリアランス

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出典:内閣官房「 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」16頁を基に筆者ら作成

 そして、③重要経済安保情報を漏えいした場合には、個人と事業者の双方について5年以下の拘禁刑  1 もしくは500万円以下の罰金に処され、またはこれらを併科される可能性があります。

 このような制度の骨格は我が国の既存のセキュリティ・クリアランス制度である 特定秘密保護法  2 と同様であり、重要経済安保情報保護活用法は特定秘密保護法を参考に立案されています。

2 民間事業者への影響

2-1 重要経済安保情報保護活用法の影響を受ける民間事業者

 重要経済安保情報保護活用法が定めるセキュリティ・クリアランス制度は、一義的には国家の安全保障のための情報保全制度ですが、民間事業者が重要経済安保情報を活用することによるビジネス機会の拡大や情報保全体制の強化、サイバーセキュリティの強化などが期待されています。

 重要経済安保情報保護活用法の影響を受ける民間事業者は、 行政機関から重要経済安保情報の提供を受ける事業者です。現時点で、重要経済安保情報の詳細は明らかではありませんが、たとえば、以下のような民間事業者が重要経済安保情報の提供を受け得ると想定されます。また、重要経済安保情報の提供を受けることの主なメリット・デメリットとしては以下のようなものが考えられます。

影響を受け得る民間事業者と主なメリット・デメリット

影響を受け得る民間事業者
(重要経済安保情報の提供を
受け得る事業者)
主なメリット 主なデメリット
  • 重要インフラ事業者
  • 重要な物資のサプライチェーンに関連する事業者
  • 重要インフラや重要な物資のサプライチェーンに関する革新的な技術に関連する事業者
  • サイバーセキュリティに関連する事業者
  • 重要経済安保情報を利用できる
  • セキュリティ・クリアランスを保有していることが要件とされる会議、取引、入札等に参加できる
  • 自社の情報保全が強化される
  • 適合事業者に認定されるためには施設設備といった物理的要件と株主構成や役員構成といった組織的要件を満たす必要がある
  • 重要経済安保情報を取り扱う業務には、適性評価で認定を受けた者しか従事させることができない
  • 適性評価は従業者のプライバシーに関わる情報の提供と従業者の同意が必須
  • 従業者が適性評価に同意しなかったり、適性評価で認定を受けられなかったりした場合の不利益取扱いや適性評価の結果等の目的外利用が禁止される

 留意すべき点として、 適合事業者の認定や従業者の適性評価は、重要経済安保情報の提供を受けるための前提であって、民間事業者やその従業者に資格や権利を付与するものではありません。民間事業者が重要経済安保情報の提供を受けるには、行政機関が当該民間事業者に重要経済安保情報を利用させる必要があると認めることが必要になります。重要経済安保情報を利用する必要性がないにもかかわらず、念のために適合事業者の認定や適性評価を受けておくといったことは制度上想定されていません。

2-2 民間事業者が保有する情報への影響

 重要経済安保情報保護活用法が成立したことで、「ある日突然、自社の保有する情報が重要経済安保情報に指定され、様々な規制を受けて事業活動が妨げられてしまうのではないか」と懸念される企業の方もいらっしゃるかと思います。この点、重要経済安保情報として指定される情報は、 政府が現に保有する情報や、適合事業者の同意を得て行わせる調査研究等により生じることが見込まれ、政府が保有することとなる情報です  3。そのため、上記のような懸念はないということを、政府は国会審議で繰り返し説明しています。

 また、重要経済安保情報保護活用法による義務や罰則が適用されるのは、 民間事業者が政府との間で秘密保持契約を結んだうえで、政府が指定した情報を当該民間事業者が重要経済安保情報として保有するに至った場合に限定されています  4。したがって、仮に、自社が元々保有していた情報を政府に提供した結果、当該情報が重要経済安保情報に指定されたとしても、自社が他社に当該情報を提供する場合には、提供にあたって政府の同意は必要ありませんし、当該他社が適合事業者であるなどの必要もないことになります。

3 重要経済安保情報の指定

3-1 「重要経済安保情報」の定義

 指定の対象となる「 重要経済安保情報」とは、 以下の3要件をすべて満たす情報(特別防衛秘密  5 および特定秘密  6 に該当するものを除く)として行政機関の長が指定した情報をいいます(重要経済安保情報保護活用法(以下法律名を省略)3条1項)。

重要経済安保情報の3要件

要件 内容  
① 重要経済基盤保護情報該当性 重要経済基盤保護情報に該当すること
② 非公知性 公になっていないもの
③ 特段の秘匿の必要性 その漏えいが我が国の安全保障に 支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要性があるもの

(1)重要経済基盤保護情報該当性

 「重要経済基盤」とは、具体的には、 我が国にとって重要なインフラや重要な物資のサプライチェーンを意味しています  7(2条3項)。
 そして、「重要経済基盤保護情報」とは、「重要経済基盤」に関する情報であって以下の事項に関するものをいいます(同条4項)。

  1. 外部から行われる行為から重要経済基盤を保護するための措置またはこれに関する計画もしくは研究
  2. 重要経済基盤の脆弱性、重要経済基盤に関する革新的な技術その他の重要経済基盤に関する重要な情報であって安全保障に関するもの
  3. ①の措置に関して収集した外国の政府または国際機関からの情報
  4. ②および③の情報の収集整理またはその能力

 重要経済安保情報保護活用法の国会審議では、重要経済基盤保護情報に該当し得る情報の具体例として、以下の情報が挙げられていました  8

  • 我が国の重要なインフラ事業者の活動を停止または低下させるようなサイバー攻撃等の外部からの行為が実施される場合を想定した政府としての対応案の詳細に関する情報
  • 我が国にとって重要な物資の安定供給の障害となる外部からの行為の対象となりかねないサプライチェーンの脆弱性に関する情報
  • 我が国政府と外国政府とで実施する安全保障に関わる革新的技術の国際共同研究開発において、外国政府から提供され、当該外国において本法案による保護措置に相当する措置が講じられている情報

(2)非公知性

 非公知性の判断は、 現に不特定多数の人に知られているか否かによって行うものとされています。たとえば、重要経済安保情報と同一性を有する情報が出版物、インターネット等に掲示された場合や第三者により公表された場合などには、非公知性が失われます  9

(3)特段の秘匿の必要性

 重要経済安保情報の「その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがある」という要件は、特定秘密の「その漏えいが我が国の安全保障に 著しい支障を与えるおそれがある」という要件よりも広い要件となっています(「著しい支障」は「支障」に含まれるため)。また、特定秘密として指定される情報は、防衛、外交、スパイ活動の防止、テロリズム防止の4分野に該当する情報ですが、その中には重要経済基盤保護情報も含まれています。

 つまり、重要経済安保情報と特定秘密は指定される情報の範囲としては一部重なっているのですが、重要経済安保情報保護活用法は重要経済安保情報の定義から特定秘密を除いています。これにより、「著しい支障」に相当する情報(諸外国の制度でいうトップ・シークレット級またはシークレット級の情報)は特定秘密として、「著しい支障」相当には至らない「支障」相当の情報(諸外国の制度でいうコンフィデンシャル級の情報)は重要経済安保情報として保護されることになります(下図参照)。

重要経済安保情報と特定秘密の関係

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出典:内閣官房「 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」2頁を基に筆者ら作成

3-2 指定される情報の詳細

 指定される情報の詳細については、外部有識者の意見を聴いて作成される運用基準(18条1項)で明確化される予定です。
 「我が国にとって重要なインフラや重要な物資」については、経済安全保障推進法  10 における重要インフラや重要物資が参考になります(下図参照)。もっとも、重要経済安保情報保護活用法と経済安全保障推進法では、重要インフラや重要物資の範囲は必ずしも一致しないということに留意する必要があります。

(参考)経済安全保障推進法における重要インフラ・重要物資

重要インフラ
①電気 ②ガス ③石油 ④水道 ⑤鉄道
⑥貨物自動車運送 ⑦外航貨物 ⑧港湾運送 11 ⑨航空 ⑩空港
⑪電気通信 ⑫放送 ⑬郵便 ⑭金融 ⑮クレジットカード
重要物資
①抗菌性物質製剤 ②肥料 ③永久磁石 ④工作機械および産業用ロボット ⑤航空機の部品 ⑥半導体
⑦蓄電池 ⑧クラウドプログラム ⑨可燃性天然ガス ⑩重要鉱物 ⑪船舶の部品 ⑫先端電子部品

4 重要経済安保情報の管理・提供

4-1 適合事業者に対する重要経済安保情報の提供

 行政機関の長は、我が国の安全保障の確保に資する活動の促進を図るために、我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者であって一定の基準に適合する事業者( 適合事業者)に重要経済安保情報を利用させる必要があると認めたときは、当該適合事業者との契約に基づき、当該適合事業者に当該重要経済安保情報を提供することができます(10条1項)。

 重要経済安保情報保護活用法では、以下のような事業者が「我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者」として例示されています(同項)。

「我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者」の例

  • 重要経済基盤の脆弱性の解消を図る必要がある事業者
  • 重要経済基盤の脆弱性の解消に資する活動を行う事業者
  • 重要経済基盤の脆弱性および重要経済基盤に関する革新的な技術に関する調査または研究を行う事業者
  • 重要経済基盤の脆弱性および重要経済基盤に関する革新的な技術に関する調査または研究に資する活動を行う事業者
  • 重要経済基盤保護情報を保有する事業者
  • 重要経済基盤保護情報の保護に資する活動を行う事業者

 たとえば、重要インフラ事業者は「重要経済基盤の脆弱性の解消を図る必要がある事業者」に、サイバーセキュリティに関連する事業者は「重要経済基盤の脆弱性の解消に資する活動を行う事業者」に該当し得ると考えられます。

 重要経済安保情報は当然公開されないため、具体的にどのような情報が重要経済安保情報として指定されているかを民間事業者側で知ることはできません。そのため、民間事業者にとっては、 まずは行政機関側から重要経済安保情報を提供したいと打診されるのを待つことになります。打診を受けた後、重要経済安保情報を提供する前提となる契約関係に入る前に、当該行政機関と民間事業者とのやりとりの過程において、提供される可能性がある重要経済安保情報の概略や当該情報の活用方法などについて、可能な範囲で当該行政機関から当該民間事業者に伝達されることになると考えられています  12

 民間事業者としては、 重要経済安保情報の活用方法などのメリットと重要経済安保情報の提供を受ける場合の負担等のデメリットを考慮したうえで、重要経済安保情報の提供を受けるかどうかを判断することになると考えられます。

 なお、適合事業者は、行政機関の同意があれば、他の適合事業者に重要経済安保情報を提供することができますが(同条6項)、適合事業者が重要経済安保情報を外国政府などに直接提供することは制度上想定されておらず  13、仮に外国政府・外国の民間事業者に重要経済安保情報を提供する必要が生じた場合には、日本政府から提供されると考えられます。

4-2「適合事業者」の定義

 「適合事業者」とは、 我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者であって重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置していることその他政令で定める基準に適合するものをいいます(10条1項)。国会審議においては以下の基準が例示されていましたが  14、詳細は政令で定められることになります。

  • 重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置していること
  • 重要経済安保情報を取り扱う場所への立入りの制限および機器の持込みの制限
  • 従業者に対する重要経済安保情報の保護に関する教育
  • などの措置の実施に関する規程を事業者において定め、かつ、当該規程に従って措置を講ずることにより重要経済安保情報が適切に保護されると認められること

 2023年2月に設置された「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」の「 最終とりまとめ15 では、民間事業者等が保有する施設などの物理的管理要件だけではなく、米国における「外国による所有、管理または影響(FOCI:Foreign Ownership, Control, or Influence)」の観点から、民間事業者等の株主構成や役員構成といった組織的要件についても、我が国の企業等の実情や会社法等との整合性を踏まえながら実効的かつ現実的な制度を整備していくべきであるとされており、組織的要件としてどのような要件が設けられるかは引き続き政令や運用基準に関する議論を注視していく必要があります。

4-3 行政機関と適合事業者との間で締結する契約

 適合事業者が行政機関から重要経済安保情報の提供を受ける前提となる、行政機関と適合事業者との間で締結する契約には、以下の事項を定めなければならないこととされています(10条3項)。また、適合事業者は契約に従い、重要経済安保情報の適切な保護のために必要な措置を講じ、その従業者に取扱いの業務を行わせることとされています(同条4項)。

行政機関と適合事業者の間で締結する契約で定めるべき事項

  1. 適合事業者が指名して重要経済安保情報の取扱いの業務を行わせる従業者の範囲
  2. 重要経済安保情報の保護に関する業務を管理する者の指名に関する事項
  3. 重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備の設置に関する事項
  4. 従業者に対する重要経済安保情報の保護に関する教育に関する事項
  5. 行政機関がその同意を得て適合事業者に行わせる調査研究等により当該適合事業者が保有することが見込まれる情報を重要経済安保情報に指定し、重要経済安保情報を保有させられた適合事業者にあっては、行政機関の長から求められた場合には当該重要経済安保情報を当該行政機関の長に提供しなければならない旨
  6. 適合事業者による重要経済安保情報の保護に関し必要なものとして政令で定める事項

5 重要経済安保情報の取扱者の制限

 重要経済安保情報の取扱いの業務は、 適性評価において重要経済安保情報の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者でなければ行ってはならないこととされています(11条1項)。適性評価を受ける必要がないとされているのは、行政機関の長や政務三役といった一部の者だけであり、たとえば、弁護士や公認会計士といった者は例外とされていません  16
 なお、特定秘密保護法における直近の適性評価において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められてから5年が経過していない者は、重要経済安保情報保護活用法の適性評価を受けなくても重要経済安保情報の取扱いの業務を行うことができる場合があります(同条2項)。

6 適性評価

6-1 適性評価の対象者

 適性評価の対象者は、基本的に、重要経済安保情報を保有する 適合事業者の従業者として重要経済安保情報の取扱いの業務を新たに行うことが見込まれることとなった者です(12条1項1号)。ただし、 重要経済安保情報を提供する行政機関と同一の行政機関による直近の適性評価で重要経済安保情報を漏らすおそれがないと認められた者のうち、当該適性評価に係る評価対象者への通知があった日から10年を経過していないものであって、引き続き当該おそれがないと認められるものは、改めて適性評価を受ける必要はありません(同号イ)。例外とされているのは、あくまで「同一の行政機関」の適性評価で認定を受けた場合であり、直近の適性評価を実施した行政機関と重要経済安保情報の提供を受ける行政機関が異なる場合にはこの例外は適用されないことに留意する必要があります。

 また、適性評価には10年間の有効期間があるというわけでは必ずしもなく、 重要経済安保情報を漏らすおそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情があると判断されれば再び適性評価を受ける必要があります(同項3号)。

6-2 調査への同意と調査項目

 適性評価は、適性評価の対象となる者(評価対象者)に対して調査を行い、その結果に基づいて実施されます(12条2項)。
 調査は、あらかじめ一定の事項を評価対象者に告知したうえで、その同意を得て実施されます(同条3項)。調査項目は以下の7項目が法定されており(同条2項各号)、支持政党や入信している宗教団体といった法定されていない事項は調査の対象外です  17。また、調査項目自体は、一部が重要インフラや重要な物資のサプライチェーンに限定されている以外は、特定秘密保護法の調査項目(特定秘密保護法12条2項各号)とほぼ同一です。ただし、具体的な質問事項は、重要経済安保情報と特定秘密の機微度の差を踏まえ、異なるものになる可能性があります。

重要経済安保情報保護活用法における調査項目

重要経済安保情報保護活用法における調査項目 (参考)特定秘密保護法の類似の調査項目における
主な質問事項 18
重要経済基盤毀損活動  19 との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者  20、父母、子および兄弟姉妹ならびにこれらの者以外の配偶者の父母および子をいう)および同居人(家族を除く)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む)および住所を含む)
  • 本人の氏名、生年月日、性別、旧姓・通称、現住所、本籍、国籍、帰化歴、外国籍の有無・歴
  • 本人の過去10年以内の職歴・学歴
  • 家族・同居人の氏名、生年月日、性別、旧姓・通称、現住所、国籍、帰化歴、外国籍の有無・歴
  • 本人のスパイ活動・テロリズムとの関係、外国政府・外国人との関係
  • 本人の外国に所在する金融機関の口座の有無、外国の不動産の保有の有無
  • 本人の過去10年以内の渡航歴
犯罪および懲戒の経歴に関する事項
  • 有罪判決や懲戒処分を受けた経歴
情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
  • 過去の情報の取扱いに係る非違行為の経歴
薬物の濫用および影響に関する事項
  • 違法薬物の使用歴、処方薬等の濫用歴
精神疾患に関する事項
  • 精神疾患の受診歴
飲酒についての節度に関する事項
  • 飲酒トラブルの経歴
信用状態その他の経済的な状況に関する事項
  • 住宅・自動車・教育ローン等以外の借入れの有無・内容
  • 税金等の滞納歴
  • 破産歴

 適性評価は各調査項目の調査結果を総合して判断するものであり、ある1つの事項のみをもって判断するわけではないとされています。たとえば、適性評価の対象者が外国籍の者であるという事実は重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項として考慮要素の1つとなりますが、最終的には調査結果に基づく総合評価によって判断されます  21。そのため、外国人が一律に排除されているわけではありません  22

 なお、評価対象者が 適性評価を実施する行政機関以外の他の行政機関が実施した直近の適性評価で認定を受けてから10年以内である場合、改めての調査は行われず、当該行政機関による適性評価は、当該他の行政機関による直近の適性評価の際の調査結果を利用して行われます(12条7項)。

6-3 適性評価・調査のプロセス

 適性評価・調査のプロセスの概要は下図のとおりです。

適性評価・調査プロセスの概要

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出典:内閣官房「 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」17頁を基に筆者ら作成

 まず民間事業者においては、重要経済安保情報の取扱いの業務を新たに行うことが見込まれるかどうかといった観点から適性評価を受ける従業者の範囲を判断し、対象者の同意を得たうえで対象者の氏名等を名簿に記載して行政機関に提出します(上図②)。

 その後、評価対象者に対する告知・同意確認を経て(上図③)、適性評価の実施主体である行政機関がどこかにかかわらず、内閣府において一元的に調査を実施します(上図⑤)。調査の中では、人事管理情報の確認や調査対象者の上司への確認も行われるため、適合事業者はこれらの調査に協力する必要があります。

 評価後、評価対象者に対しては評価結果(および認定を受けられなかった場合には支障のない範囲でその理由)が通知されますが(13条1項・4項)、適合事業者には評価結果(適性評価に同意しなかった場合にはその旨)のみが通知されます(同条2項)。適合事業者に対しては、調査の過程で得られた情報や認定を受けられなかった理由は通知されません。

 なお、適性評価の実施後に一定の事情変更があった場合については、本人に自己申告することを誓約書で求めることや、適合事業者が一定の事情変更があったことを知った場合には評価を行った行政機関に対して報告することを求めることが想定されています  23

7 目的外利用・不利益取扱いの禁止

 その従業者である評価対象者の適性評価の結果またはその従業者が適性評価に同意しなかった旨の通知を受けた適合事業者は、 重要経済安保情報の保護以外の目的のために、当該通知の内容を自ら利用し、または提供してはならないこととされています(16条2項)。目的外利用には、これらを理由として人事上の処遇などで不合理かつ不利益な取扱いをすることも含まれます  24

 国会審議では、たとえば、適性評価の結果を通常の人事考課や人事異動に利用提供すること  25 や、企業が営業目的で第三者に従業員の適性評価の結果を示して回ること  26 が目的外の利用提供に当たるという趣旨の政府の答弁がされています。他方で、重要経済安保情報保護活用法16条2項は、適性評価を受けた本人が自らその結果を示すことまで禁止しているものではありません  27(もっとも、スパイ活動のターゲットになってしまう危険性があることから、このような行為については慎重であるべきともされています)。今後策定される運用基準においては、具体的な禁止行為が明示される予定ですので、議論を注視していく必要があります  28

 目的外の利用・提供をした場合の罰則はありませんが、政府は適合事業者が従業員に対して適性評価の結果のみをもって何らかの不利益な取扱いをした場合は当該適合事業者との契約を打ち切る方針を示しています  29

8 罰則

 主な罰則として、重要経済安保情報の取扱いの業務に従事する者がその業務により知り得た重要経済安保情報を漏らしたときは、 5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に処され、またはこれを併科されることになります(重要経済安保情報の取扱いの業務に従事しなくなった後においても同様で、未遂犯や過失犯も罰せられます(23条1項・3項・4項))。
 また、重要経済安保情報保護活用法では、特定秘密保護法にはなかった両罰規定が設けられ、事業者・従業者個人の双方について上記の罰則等が適用されます  30 (28条)。

9 企業に求められる対応

9-1 自社が重要経済安保情報を利用する可能性・必要性の検討

 重要経済安保情報の詳細はまだ明らかにはなっていませんが、上記のとおり、たとえば、政府が例示したものや経済安全保障推進法の重要インフラや重要物資などを参考に、 自社がそのような情報を利用する可能性があるかどうかを検討する必要があると考えられます。

 その際、単に情報の分野が一致しているかどうかを検討するだけではなく、情報の機微度も検討する必要があると考えられます。すなわち、重要経済安保情報として指定される情報は、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがある情報であって、単に事業者に損害を与えるに過ぎない情報ではありません。また、自社が重要インフラや重要物資に関連する事業を行っていたとしても、当該事業の中で重要経済安保情報を取り扱うことが避けられるのであれば、重要経済安保情報保護活用法の影響を避けることが可能であると考えられます。

9-2 目的外利用・不利益取扱いに留意した採用、配置転換、解雇等

 重要経済安保情報を利用する必要がある場合、重要経済安保情報の取扱いの業務は適性評価で認定を受けた従業者しか行えないことになります。民間事業者としては、 重要経済安保情報の保護の目的の範囲内でどのような行為が許され、どのような行為が許されないのかといった点が気になるものと思われます。

 仮に重要経済安保情報の取扱いの業務を行わせようと考えていた従業者が適性評価の実施に同意しなかったり、適性評価の認定を受けることができなかったりした場合、適切な配置転換が可能であれば問題は生じないと考えられます。しかし、 そもそも重要経済安保情報の取扱いの業務を行うことを前提に採用した者であった場合はどのように取り扱えばよいのか(たとえば解雇は可能なのか)、あるいはそのような者については採用前の内定段階で適性評価を受けてもらい、適性評価の認定を受けることができなかった場合には内定を取り消すといったことは可能なのかということが問題になり得ると考えられます。

 目的外利用・不利益取扱いに該当する具体的な行為は、今後運用基準において示されることになりますが、重要経済安保情報を利用する必要がある企業においては、上記のようなケースについて目的外利用・不利益取扱いに当たらない形での適切な対応を検討する必要があると考えられます。

10 施行スケジュールと今後の動向

 重要経済安保情報保護活用法は、2025年5月17日までの政令で定める日から施行されます。
 指定される情報の詳細や適合事業者の要件、目的外利用・不利益取扱いに該当する具体的な行為といった重要な点については、今後政令や運用基準で定められていくことになります。運用基準については、今後政府において有識者の意見を聴いたうえで作成し閣議決定されることになっているため、 重要経済安保情報保護活用諮問会議における議論の状況を注視していく必要があると考えられます。

Footnotes

1. 重要経済安保情報保護活用法の施行日が、2025年6月1日(拘禁刑を導入する刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)の施 行日)以前の場合、2025年5月31日までの間においては「拘禁刑」は「懲役」とされます(附則4条)。

2. 特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号) 

3.  2024年3月19日衆議院本会議岸田文雄内閣総理大臣答弁 

4. 2024年3月19日衆議院本会議岸田文雄内閣総理大臣答弁 

5. 特別防衛秘密は、日本国と米国との間の相互防衛援助協定(昭和29年条約第6号)等に基づいて米国から供与された装備品等に係る秘密であり、日米相互援助協定等に伴う秘密保護法(昭和29年法律第166号)によって保護されます。 

6. 特定秘密は、特定秘密保護法3条1項に基づいて指定された情報であり、同法によって保護されます。 

7.  2024年3月19日衆議院本会議高市早苗国務大臣答弁 

8. 2024年3月22日衆議院内閣委員会品川高浩政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室次長)答弁 

9. 2024年4月25日参議院内閣委員会品川高浩政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室次長)答弁 

10. 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号) 

11. 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第28号)によって追加(未施行) 

12.  2024年3月27日衆議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

13. 2024年3月19日衆議院本会議高市早苗国務大臣答弁 

14. 2024年3月22日衆議院内閣委員会彦谷直克政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室次長)答弁 

15. 経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議「最終とりまとめ」(2024年1月19日) 

16. したがって、弁護士や公認会計士も重要経済安保情報を取り扱う場合には適性評価を受ける必要がありますが、重要経済安保情報の漏えい事件の刑事弁護といった例外的な場合を除いて、そもそもこれらの者が業務上重要経済安保情報を取り扱う必要があるのかという問題があります。 

17.  2024年3月27日衆議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

18.「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(平成26年10月14日閣議決定) 

19. 重要経済基盤毀損活動とは、次の①および②をいいます(12条2項1号)。
①重要経済基盤に関する公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、重要経済基盤に関して我が国および国民の安全を著しく害し、または害するおそれのあるもの
②重要経済基盤に支障を生じさせるための活動であって、政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人を当該主義主張に従わせ、または社会に不安もしくは恐怖を与える目的で行われるもの 

20. 婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含みます。 

21. 2024年3月27日衆議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

22.  2024年4月3日衆議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

23.  2024年4月3日衆議院内閣委員会飯田陽一政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室長)答弁 

24.  2024年3月19日衆議院本会議岸田文雄内閣総理大臣答弁 

25.  2024年3月19日衆議院本会議岸田文雄内閣総理大臣答弁 

26.  2024年3月22日衆議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

27. 2024年3月22日衆議院内閣委員会品川高浩政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室次長)答弁 

28.  2024年4月25日参議院内閣委員会高市早苗国務大臣答弁 

29. 2024年3月26日高市早苗経済安全保障担当大臣記者会見 

30. 両罰規定が設けられた理由については、特定秘密保護法ではいわば非代替性が認められるときに適合事業者への情報提供が可能とされているのに対し、重要経済安保情報保護活用法では、各行政機関の長が安全保障の確保に資する活動の促進を図るために必要があると認めたときに事業者への情報提供を行うことができるとされており、適合事業者の範囲が広がることや重要経済安保情報の経済的価値が高いことを踏まえると事業者における重要経済安保情報の組織的な不正取得・漏えいのおそれが否定できないためであると説明されています( 2024年3月19日衆議院本会議岸田文雄内閣総理大臣答弁)。 

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