Ⅰ 抱き合わせ販売に関する確約計画の認定
2025 年 2 月 13 日、公正取引委員会が医療機器等の製造販売業者の確約計画を認定しました 1。
X 社は血液凝固測定装置及び凝固試薬等を販売する製造販売業者であり、血液凝固測定装置については販売台数・販 売金額共に全国第 1 位のシェアを有しています。国内で製造販売されている血液凝固装置は、その装置の製造業者が製 造する凝固試薬以外の凝固試薬を使用することも可能であり、X 社の血液凝固測定装置も同様です。しかし、公正取引委 員会は、X 社が自社の一定の血液凝固測定装置を病院等に供給するに際して自社の一定の凝固試薬のみを使用するこ とを条件としていたとの嫌疑(以下、「被疑行為」)をもって調査を行っていました。
独占禁止法(以下、「独禁法」とします。)上、ある商品について市場における有力な事業者の地位にある者が、取引の 相手方に対して、当該商品の供給に併せて他の商品を購入させることによって公正な競争を阻害する場合には、いわゆ る抱き合わせ販売と呼ばれ、不公正な取引方法として禁止されています(独禁法 2 条 9 項、19 条、不公正な取引方法 10 項)。ただし、公正取引委員会が独禁法違反の疑いのある行為について調査した場合であっても、必ずしも排除措置命令 や課徴金納付命令が出される訳ではなく、当局と事業者との合意によって事案を解決し、違反が疑われる行為を迅速に 排除することで独禁法を効果的・効率的に執行する目的で確約手続が設けられています。確約手続においては、まずは 公正取引委員会が事業者に対して、違反被疑行為の概要とその行為を排除する措置に関する認定を申請することがで きること等を通知します。事業者がこれを受け容れる場合には、自ら採る予定の排除措置を通知から 60 日以内に公正取 引委員会に対して提出して、その認定を申請し、公正取引委員会は、排除措置が違反被疑行為を排除するために充分で あることと確実な実施が見込まれることを検討の上でその排除措置計画を認定します。
本件では X 社は、(1)自社の血液凝固測定装置と凝固試薬に関して被疑行為と同様の行為を今後 5 年間行わない措置 を 5 年間実施すること、(2)取締役会において、被疑行為を取り止めていることの確認と、(1)の措置を執ることを決議す ること、(3)(1)の措置を血液凝固測定装置の使用先の病院や卸売業者等に周知するとともに自社の関連事業の役員・従 業員に徹底すること、(4)関連事業に関する独禁法の遵守についての行動指針の作成と役員・従業員への徹底、定期的な 研修と法務担当者による定期的監査及び独禁法違反の可能性のある行為についての血液凝固測定装置の使用先の病 院等からの相談受付窓口の設置、(5)公正取引委員会が承認する第三者による、上記(1)乃至(4)の措置の履行の監視、及 び一定事項についての公正取引委員会への報告等を含む確約計画を策定して申請し、公正取引委員会はこれを認定し たものです。
Ⅱ 自主点検通知の改正
2025 年 1 月 20 日、厚生労働省より「「後発医薬品の製造販売承認書と製造方法及び試験方法の実態の整合性に係る 点検における相違の考え方について」の一部改正について 2」(以下、「本通知」)が発出されました。
厚生労働省は、後発医薬品に関して製造販売承認書からの逸脱した方法で製造されている不適切事例が確認されて いたことを受けて、2024 年 4 月 5 日付の通知3において、製造方法及び試験方法の実態が承認書の内容等に即したもの となっているかを速やかに点検することを製造販売業者等に対して求めていました。具体的には、同通知により、自主点 検実施手順が作成され、製造・品質検査手順の書面調査に加え、従事者へのヒアリングによる実情確認や個社の実態に 沿った点検計画及び進捗状況の HP 上公開、自主点検結果の行政報告 4(厚生労働省及び都道府県)と HP 上への順次公 開等が要請されています。
そして、かかる自主点検において製造販売承認書の記載と実際の製造工程との間に「相違」が発見された場合には、医 薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等に基づく対応が必要となるところ、発見された製 造販売承認書と実際の製造工程との間の違いが、対応が必要な「相違」に該当するかについての考え方や製造販売業者 がとるべき行動について、2024 年 10 月 30 日に発出された「後発医薬品の製造販売承認書と製造方法及び試験方法の 実態の整合性に係る点検における相違の考え方について 5」(以下、「旧通知」)において示していました。
本通知では、主に旧通知で示されていた「直ちに相違とはしないもの」という類型に対する対応方法を修正するととも に、いくつかの留意点を追加しています。主な変更点は以下のとおりです。
- 旧通知では、一定の誤記載等の事項について、「直ちに相違とはしないが、承認書の記載整備が必要であり、そ の薬事手続を軽変届書により行うことの妥当性について、PMDA 6への相談を要する」とされていましたが、 PMDA への相談を要するという点は維持しつつも、「製造販売承認書の記載整備の必要性について製造販売業 者が個別に判断する必要があり、必要と判断した場合には」PMDA に相談するという形に修正されました。
- 本通知が「相違としない」又は「直ちに相違としない」と定めている事項以外については、「相違」に該当とするも のとし、速やかに薬事手続を行うことが引き続き求められていますが、「製造手順書等に記載された操作条件、 工程パラメータ等の一部が製造販売承認書に記載されていないことのみをもって、直ちに相違となるものでは ない」点が留意事項として新たに追記されています。
- 製造販売業者が「相違」に該当しないと判断したものについては、今後、調査等においてその判断根拠が求めら れるとともに、一変申請を求められる場合がある点は、旧通知では「相違としないもの」の中で示されていたと ころ、新たに「相違とするもの」の中で示すこととして注意喚起されています。
Footnotes
1 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/feb/250213dai4.html
2 https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T250121I0030.pdf
3 「後発医薬品の製造販売承認書と製造方法及び試験方法の実態の整合性に係る点検の実施について」(令和 6 年 4 月 5 日付け医政産情企発 0405 第 2 号)
4 自主点検の結果は、「後発医薬品の製造販売承認書と製造方法及び試験方法の実態の整合性に係る自主点検 相違発 生原因と再発防止策の策定」(2025 年 1 月 24 日 日本製薬団体連合会 安定確保委員会) (https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001383949.pdf)4 ページ参照。
5 https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T241101I0030.pdf
6 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
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