進歩性の本質については、実務家、学者により様々な議論がされているが、要は、従来 の特許等との差異が質的又は量的に大きいか否か、である。この差異の判断の仕方として は、日本の特許審査実務においては「従来の特許の文献を参照してもその発明を構成する ことが困難であるか」ということになり、「構成の困難性」の判断の一要素として「従来 の発明では奏することができない効果があるか」を検討する、ということになる。

特許制度は、技術の進歩、産業の発達に資する発明のみを特許にするようになってい る。これはいずれの国の特許制度でも同様である。発明は、課題と、構成と、効果により 特定される。「新規性の有無」は基本的に「構成」の問題である。「進歩性」は、新規性 があることを前提にして、当該発明の従来技術との差異を、課題及び効果を考慮に入れつ つ検討する。

効果は、「当該発明がいかに社会にメリット、利益を提供して貢献できるか」である。 貢献の程度が大きいものには特許を認めよう、という考え方は、いずれの国でも同様であ る。

進歩性よりもさらに基本的な特許要件である「新規性」は、要は、「従来の技術、特許を

同一であるか否か」というハードルであり、従来の技術等と完全に同一の場合にのみ新規 性がない、とう判断がされる。従って、「該当するか否か」という「オールオアナッシン グ」のデジタル的なハードルである。

一方、進歩性の判断は、「新規性はあるが、特許を付与するほどに従来の技術とは異なっ ているか」という観点からのハードルであり、どの程度、従来技術と差別化ができ、距離 的に離れれば特許にできるのか、が一義的に明確ではなく、その意味で、非常にアナログ 的な意味合いの強い概念である。その結果、この進歩性の認定に関し、様々な考え方があ り、議論がなされ、多くの発明者及び弁理士、特許弁護士が「進歩性がない」という拒絶 理由通知を受け取ると、その反論に頭を悩ませることになる。そして、ほとんどの拒絶理 由は進歩性 の欠如である。従って、「進歩性」は、出願人及び代理人にとっての永遠の 課題といえる。

やっかいなのは、進歩性の判断には微妙な部分があることである。従来との圧倒的な差 異、又は従来にない圧倒的な効果を奏することができるような「大発明」であることを立 証できれば確実に進歩性は認められる。

但し、当然に、そのような従来の類似技術の存在しない「大発明」ではない、ボーダー ライン上の発明の方が圧倒的に多く、従来の技術の効果との差異がさほど大きくない場合 も多々ある。もっといえば、現代の圧倒的多数の発明は全て「改良発明」である。

即ち、中には、従来技術が存在しないような「大発明」も中にはあるが、ほとんどは、 従来からある技術の一部を改良し、より良い技術を生みだした、という発明である。

このような「従来技術との間で大きな差異のない発明」案件が我々実務家にとっても、 出願人にとっても、審査官との間で非常に苦しい戦いを展開せざるをえないことになる。

このような場合に進歩性を認めるか否か、に関しては、出願人、審査官双方の主張立証 を尽くした後は、最終的には、審査官の技術感、社会観、もっといえば、基本的に当該発明に対して肯定的であるか否か、さらには、批判的、ネガティブな性格か、肯定的な性格 であるか、も関わってくる。この点は訴訟における担当裁判官により判決が異なる事情と 全く同様である。

また、当然のことながら、技術分野においても進歩性のハードルの高さは異なる。ま た、特許庁内部でも審査では進歩性が否定されたが審判で認められる場合もある。また、 特許庁で進歩性が認められなくとも、裁判所で認められる場合もある。

このように進歩性判断は非常に様々な変動要素を含む、微妙な判断である。従って、こ の判断が恣意的にならないように特許庁は「特許審査基準」を制定して公開し、審査官の 進歩性判断の指針としている。にもかからず、なお、進歩性判断には上記のような変動要 素がある。

従って、進歩性を論ずる場合には、以上の変動要素の全てを考慮にいれて考える必要が ある。最初に述べたとおり、日本特許庁の審査においては、ともかく「従来技術に比して の有利な効果を奏せることの主張ができるか、否か」を、先ずは考えることである。

日本の特許審査においては、審査官が指摘した進歩性否定の証拠文献との間の発明の構 成の相違をいくら主張しても余り勝ち目はない点で米国審査実務とは大きく異なる。

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