要旨
状況:二国間合意により関税率が15%に引き下げられたものの、輸出企業はなおコスト増に対応する必要があります。
動向:主な検討事項には、関税負担そのものの軽減と、販売先に転嫁できないコストの日米の親子会社間での配分の問題があります。 これらの問題は、米国関税法および日米両国の移転価格税制の適用があることから、複雑な対応を迫られることになります。
今後の見通し:日本の輸出企業は、日米両国の税務の専門家と連携して、関税コストの管理について適法かつ実効的な戦略を策定する必要があります。
いわゆるトランプ関税については、7月22日、相互関税のほか、自動車および自動車部品の税率をいずれも15%とする日米政府間の合意が成立し、9月16日までに当該合意を実施する大統領令が発効しました。 上記政府間合意により米国政府が当初適用した税率は軽減されましたが、トランプ関税が重い負担であることに変わりはなく、日本の輸出企業は以下の課題への対応を迫られています。
- 関税負担そのものを軽減すること
- 販売先に転嫁できない関税負担を日米の親子会社間で配分し、両社間の販売価格に反映すること
トランプ関税の負担軽減の方策
関税負担そのものを軽減する方策の一つとして、First Saleの適用があります。 これは、日本の親会社から米国の輸出先(子会社等)への販売価格ではなく、その一つ前の取引段階であるベンダーから日本の親会社への販売価格に基づき、輸入課税価格を決定するものです。 もっとも、First Saleを適用するには、裁判例および米国税関(CBP)の前例(Ruling)が定める諸要件を充足する必要があります。 例えば、ベンダーが日本の親会社の関連会社である場合には、当該関連者間の販売価格が独立企業原則に則ったものである必要があります。
また、関税負担を軽減するため、日米の親子会社間の販売価格を値下げすることも考えられますが、値下げは無限定に認められるものではなく、値下げ幅が大きいほど米国関税法への抵触のリスクが高まります。 具体的には、米国関税法上、関連者間取引の販売価格に基づいて関税評価を行うためには、当該関連性が価格決定に影響を及ぼしていない、すなわち独立企業原則に則ったものであることが必要であり、具体的には、販売状況テスト(Circumstances of Sale Test、以下「COS」)を充足する必要があります。
COSの解釈指針としては、関税法に係る財務省規則が複数の基準を列挙しており(19 CFR §152.103(l))、CBPが最も客観的で重要な基準としているのがコストプラス基準です。 この基準は、輸入価格がすべてのコストを回収し、同種または同類の商品について、当該期間に法人全体として得られた利益と同等の利益を確保していることを必要とするものです。 また、コストプラス基準では、親会社の単体利益ではなく連結利益に着目して、関税評価上の最低価格を判断します。 したがって、親子会社間の販売価格を値下げする場合には、米国関税法およびCBPのRulingに基づいた検討を要します。
移転価格の問題
販売先に転嫁できない関税負担については、日米の親子会社間で負担割合を合意して両社間の販売価格に反映させる必要があります。 その際には、米国関税法のみならず移転価格税制にも配慮し、価格変更に当たっては関税評価と移転価格が相矛盾する性質を有するものであること、すなわち、関税評価上望ましい価格変更が米国の移転価格税制上は問題となり得ることを考慮する必要があります。
日米の親子会社間の販売価格を引き下げることは、日本の移転価格税制上も問題となり得ます。 例えば、日本の親会社が一方的に関税を負担した結果、親会社が赤字となる場合には、日本の移転価格税制に抵触するおそれがあります。 このため、各社の機能およびリスクを考慮した上で、適切な関税負担の配分方法を決定する必要があります。
従来、移転価格対応の一環として、随時、親子会社間の販売価格を変更することにより米国子会社の利益を調整する方法が行われてきましたが、関税率が上昇した現状においては、頻繁かつ大幅な価格変更(とりわけ値下げ)はCBPより問題視される恐れがあります。 したがって、価格変更に加えて、取引後に関連者間で価格調整金をやり取りする方法により利益調整を行う方法の導入を検討すべきですが、価格調整金を導入するには、親子会社間契約の整備が必要です。
親子会社間の価格変更に伴う潜在的影響
関税コストの増加に対応するための親子会社間のわずかな価格変更であっても、重大な帰結をもたらす恐れがあります。 例えば、価格変更により、事前価格合意(APA)の有効性が損なわれたり、税務申告上の前提としていた、移転価格文書で採用した価格算定方法との矛盾が生ずる恐れがあります。 一貫性を欠く、または根拠が不十分な価格調整は、米国内国歳入庁(IRS)および米国税関(CBP)の双方より指摘を受け、二重課税、罰金、控除の否認といった帰結を招く恐れがあります。
親子会社間の価格調整が必要と判断する場合、その経済的根拠と正当性を説明する文書の作成が不可欠です。 文書は網羅的かつ課税庁の調査に耐え得る水準である必要があり、税務部門による簡単な社内文書では不十分とされる恐れがあります。 当該文書は、移転価格税制上の論点と関税法上の論点の双方に言及し、IRSおよびCBPの双方の検討があることを前提に作成すべきです。
さらに、米国内国歳入法典(IRC)第1059A条の制限についても留意が必要です。 同条は、輸入貨物の関税評価額に基づく関税額を超えて、関税負担を損金算入することを制限するものです。 この規定により、不利益な税務上の帰結を回避するには関税評価額と移転価格を整合させる必要性があります。
結論
トランプ関税に起因する複雑な諸問題に対応するには、米国関税法、日米の移転価格税制、および国際税務の専門家が連携して対応する必要があります。 ジョーンズデイには、米国および日本において課税庁での勤務経験を有する専門家が在籍しており、日本の輸出企業が諸問題に適切に対処するための支援をご提供することが可能です。目下の流動的な環境においてリスク管理を行い、かつコンプライアンスを実現するには、周到な計画、堅実な文書化、および先行した対応が不可欠です。
重要なポイント
- 関税負担そのものを軽減する方策として、(a) First Saleの適用、(b) 日米の親子会社間の販売価格の引下げが考えられます。 ただし、これらの対応はいずれも独立企業原則の立証やCOSの充足といった、米国関税法およびCBPのRulingに基づく厳格な要件を満たす必要があります。
- 販売先に転嫁できない関税負担を親子会社間の販売価格に反映させる場合には、米国関税法のみならず移転価格税制の論点も検討し、価格変更に当たっては関税評価と移転価格が相矛盾する関係にあることを考慮する必要があります。 また親子会社間の販売価格の値下げは、日本の移転価格税制上の問題を生ずる恐れがあります。
- 親子会社間のわずかな価格変更であっても、APAの無効化、移転価格文書との矛盾、課税庁の調査など、重大な影響をもたらす恐れがあります。 いかなる価格変更についても、CBPおよびIRSによる税務調査を想定した、堅実な同時文書化が必要です。
- IRC第1059A条による損金算入制限を認識し、関税評価額と移転価格の整合性を図る必要があります。
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