はじめに

コロナウイルスのワクチンの開発と展開にもかかわらず、この世界におけるパンデミックと金融危機は、全産業のすべての規模の事業に対して、近い将来著しい影響を及ぼし続けるでしょう。相当数の会社の収入が一層減少することは明らかです。そのような会社は、従業員を雇用し続けることの可否が憂慮されるのみならず、サプライチェーンを維持する能力に疑義が生じるかもしれません。その他の会社も、予定していた新規の投資を取りやめたり、少なくとも遅らせることになるでしょう。一定割合の会社については、既存の借り入れの返済をし続ける能力について疑問符がつくことは不可避でしょう。

このような状況のもとでは、取締役の義務を確認することが必要です。BVI法における一般的な考え方によれば、取締役は、会社全体に対して、単独で責任を負っています。このことは、取締役は、会社の現在および将来の株主の利益を考慮しなければならないことを意味します。しかし、会社が債務超過の場合や、あるいは資産超過であることが疑われる場合においては、取締役は、会社の債権者の利益を考慮する義務を負います。

取締役の責任

BVI法人の取締役の責任は、コモン・ロー、2004年BVI事業会社法(BCA)、同法のその後の改正内容、そして、会社の定款に基づきます。

コモン・ロー

コモン・ローでは、取締役は、信認義務および善良な管理者の注意義務の2種類の義務を負います。

BVI法人の取締役は、その会社に対して以下の信認義務を負います:

  1. 正直・誠実に行動し、彼または彼女がその会社の最大の利益になると信じるとおり行動すること
  2. 彼または彼女の権限を正当な目的のために行使すること
  3. 利益相反を防止すること
  4. 彼または彼女の裁量を制限しないこと、そして
  5. 会社の資産を濫用しないこと

善良な管理者の注意義務は、取締役が、合理的な取締役が同一の環境であれば払う注意を払って行動することを義務付けるものです。その際には、その会社やその決定の性質、彼または彼女の地位およびその取締役の引き受けた責任の性質を考慮します。

BCA

BCA120条から125条までの条項は、BVI法人の取締役がその法人に対して負う信認義務およびコモン・ロー上の義務を法定しています。120条2項から4項までの各項は、取締役が、その会社に代わって親会社またはその会社の株主の最善の利益のために行動することを許可するものであり、特定の状況であって定款に対して必要な修正がなされた場合に限られます。

定款

BVI法人の取締役は、コモン・ローおよびBCAの両方にもとづく、会社の定款に従って行為する義務を負います。

BVI法人の取締役の義務が、会社に対して負う義務から、会社の債権者に対して負う義務に切り替わるのはどのようなときで、それはなぜでしょうか?

何故このような切り替えが起きるのかを説明するほうが、いつ切り替えが起きることを説明するよりも一層容易です。会社が資産超過の場合、経済的利益にリスクのあるステークホルダーはその会社の株主です。その株式を保護することが必要になります。しかし、その会社が債務超過の場合、または資産超過かどうか疑わしい場合、その利益にリスクがあるのは、その会社の債権者であり、その会社の株主ではありません。なぜなら、その株式は無価値ではないにしろ、無視できるような価値を有するに過ぎないからです。

BVI法人の取締役の義務が、会社(または親会社か親会社によって指名された株主)に対して負う義務から、会社の債権者に対して負う義務に切り替わる正確な時点は、特定することが難しく、裁判所は、確定的な法的テストを記述することに苦労してきました。

会社は、BVI法上以下の場合に債務超過であると考えられます。

  1. 制定法上の請求であって棄却されていないものについて、会社が履行することができなかったとき、または
  2. 判決またはBVI裁判所の会社に対するその他の命令の執行の結果、全部または一部が充足されなかったとき、または
  3. 会社が、期限が到来した債務を支払うことができなかったとき、または
  4. 会社の負債の値がその資産の値を上回るとき

司法では、どのような点で義務の切り替えが起きうるか文書上記述するにあたり、様々な表現を用いています。これには、「会社が債務超過であるまたは債務超過になりうる」「間接的の反対概念としての現在的なリスクが債権者にあるとき」「資産超過を疑わせるとき」「債務超過になろうとするとき」「財務上の地位が危険であるとき」「財務状態が危ういとき」という表現が含まれます。

BTI 2014 LLC v Sequana SA and others [2019] EWCA Civ 112では、イングランドおよびウェールズの控訴院が、当該義務は、実際かつ確定的な債務超過に至らない状況で発生することがあると判断しました。控訴院は、当該義務は、取締役が、会社が債務超過かまたは債務超過になりうると知りまたは知るべきであったときに切り替わると判断しています。更に、この文脈で「なりうる(likely)」とは、「確実ではないがその可能性がある(probable)」のことを意味するとしています。

控訴院によるテストの精緻化は歓迎すべき内容であるものの、未だにどの時点をもって、取締役が会社の債権者の利益を考慮しなければならないのか、確定することは難しいままです。紛争は、ケースバイケースで判断されざるを得ません。いうまでもなく、BVI法人の取締役は、会社の財務的な状況について日常的に監視し、評価し続けることが賢明です。

もし、取締役が会社が債務超過であるまたは債務超過になりうると考えるとき、またはそのような状況が生じたことについて疑わしいと考えるときは、至急専門家による法的アドバイスを求めたほうがいいでしょう。

控訴院の判決は、この法分野における最終的な表現ではないことを付言しておく必要があります。最高裁判所が、2021年5月に上告について審理する予定です。注目しておく必要があります。

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