契約書を作成する際に、既存の契約書を参考にすることも珍しくない。とは言え、契約書というものは、台湾の著作権法により保護される著作物ではないだろうか。換言すると、他人が作成した契約書を無断で利用した場合、利用者が台湾の著作権法により法的責任を負うことにならないだろうか。

台湾の知的財産裁判所で、2015年にある民事判決(100年民著訴字20号)が下されている。原告は有名なオンライン英会話スクールであり、被告も有名な英語塾である。そして、原告は、被告が無断で原告の「入会契約書」を盗用し、ごく一部の文字を改変した形の契約書をインターネット上で掲載したため、原告の著作権を侵害したと主張した。

この事件の争点の一つは、原告の契約書に著作権の保護を受けるためのオリジナリティがあるかどうかである。オリジナリティを備えるためには、「独創性」(著作者が自ら創作したものであり、他人の著作物を剽窃したものではないこと)及び「創作性」(創意が一定の高さに達すること)という二つの要件を満たさなければならない。

まず、「独創性」の有無について、この事件の被告は、「原告の職員がその入会契約書を作成した際、他社の契約書を参考にしていた他、その入会契約書も他社が公開した契約書の内容に類似していたため、独創性があるとは言い難い」と主張した。しかし、裁判所はこれを受け入れず、何から何まで一人で着想・創作した著作物というものが存在するとは考えにくく、自分のインスピレーションを引き出すために、関連性のある既存の作品を参考にすることは不可避であるので、他人の作品を参考にしたことにより独創性を否定することはできないとした。

また、「創作性」について、裁判所は、原告の入会契約書における一部の条項(例えば準拠法、合意管轄裁判所を規定する条項)は、もとより表現の方法が極めて限られるものであるため、著作権の保護対象にならないが、他の条項は原告が提供した商品・役務、及び原告のニーズに応じて作成されたものであり、その言葉遣いと記述から作者が投入した個人の思想や精神が感じ取られるので、創作性を有すると認めるべきと判断した。

被告は、「原告の入会契約書は単純な観念・概念のみを表現しており、その内容も法律及び行政機関の規定に合致しなければならないので、原告の職員が契約書を作成した際に表現した個性又は感情を感じ取れない」、「日本の学界の見解では、船荷証券及び各種の契約書は著作物になれない」等の弁解を試みたが、いずれも裁判所に否定された。裁判所の判断は、行政機関は契約書に記載すべき事項と記載すべきでない事項を設けたこと、及び標準契約書式の公表で語学学習スクール業界に一定の制限を加えたが、法律又は標準契約書式にある文字をそのまま契約書に記入することまで要請していないため、やはり自由に表現する余地があり、たとえ契約書の作成に文学を創作するときほどの自由度がなくても、契約書に創作性が存在する可能性がないことを意味するわけではないというものであった。

上記の見解に基づき、知的財産裁判所は原告の契約書が著作権の保護を受けられると判断した。

一方、最近(2021年3月)のある別の判決(109年度民著訴字第94号)で、その裁判の原告が、自らが作成した契約書の著作権を主張したが、知的財産裁判所はその契約書のオリジナリティを否定した。

この事件において、原告は、取引相手と契約を締結しようとする友人を助けるために、325字の契約書を作成した。判決では言及されていないので、原告が法律の専門家であるかどうは不明である。そして、裁判の被告(その取引相手の知り合い)が原告の同意を得ずにその契約書をフェイスブック上で公開したため、原告は、自身が批判やからかいの対象になったとして、著作権侵害訴訟を提起し、損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた。

(被告は、知り合いのためにその契約書に対する意見をネットユーザーから募集したに過ぎず、原告をからかう意図はなかったと弁解した。)

そしてこの裁判は、契約書にオリジナリティがあるかどうかが最大の争点となった。原告は、自身が数日間熟考してこの契約書を完成させたのみならず、専門的な内容が盛り込まれ、ある一定の状況にしか応用できず、誰にでも応用できるものではないため、オリジナリティがあるとした。これに対し、被告は、インターネットでこの契約書に類似したサンプルを見つけられるので、オリジナリティがないと反論した。

この325字の契約書の内容を分析した結果、裁判所は、原告の契約書に記載されたものが単純な事実(一方当事者が他方当事者を招聘して製品を作製させること)であり、よく見られる契約の内容で、民法と著作権法上の一般原則・法律用語・一般用語に過ぎないと認め、知恵を注いで個性や独特性を表現する最低限の創意がみられないため、オリジナリティがないと判断し、原告側敗訴の判決を下した。

原告が法律の専門家であるかどうかは不明であるが、仮に法律の専門家でないとして、原告が作成した契約書が、法律の専門家が作成する一般的な契約書の内容や構成と異なっていたことで、かえってオリジナリティがあると認定すべきではないかといった批判があるかもしれないが、現在までのところ、原告が控訴したかどうかは不明である。いずれにしても、上記の二つの判決を比べると、いくつかの留意すべきポイントがあるかと思われる。

  • 原則的に、台湾で契約書は著作権の保護対象になる。
  • ただし、法律の規定と行政機関の要請、一定の法律用語を使用する必要性、及び同一の性質の取引間の類似性等の原因で、本質的に、契約書の創作性は比較的に低い。
  • 従って、もし契約書により規定される法律関係が比較的に複雑で、又はその内容が比較的長いことにより、作成者がより多くの思想と創意を表現できる場合、著作権法の保護を受けられるほどのオリジナリティを具備する確率が上がる。そうでなければ、著作権の保護を受けられる範囲が小さくなり、最も極端な場合では、オリジナリティがないと認定される可能性がある。

最後に、契約書を作成する場合、その契約書を著作権の保護対象にしたいのであれば、その内容に含まれる思想と創意が足りるかに留意する必要がある。一方、他人が作製した契約書(例えばインターネットに掲載されたもの)を使用したいのならば、著作権侵害とならないために、契約書を掲載した者が他人の使用に同意したかどうか、その使用が適当な程度を超えたか(例えば、契約書によく見られる用語や表現のみを使用するか、それとも契約書の独特性のある部分を使用するか)に、注意しなければならない。

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