最近、台湾で英語試験の問題の著作権が侵害された事件があった。

TOEIC、TOEFL等の英語試験を実施することで有名な教育試験サービス(以下、ETSという)は、2017年9月上旬にある受験者から、ある人物がその受験者に同年の7月31日に行われる予定のTOEIC試験の問題と解答を販売しようとし、その受験者に信用してもらうために一部の問題を開示したとの通報を受けた。当時、その受験者はその問題と解答を購入していなかったが、後日TOEICを受験した際に、試験問題にその人物が開示した問題と同一のものがあることに気付いたため、ETSに通報した。

ETSは、試験問題が漏洩されたかどうかを確認するために、同年の9月24日に行われる予定のTOEIC試験の問題を急遽変更した。そして、9月24日のTOEICの受験者の解答を解析したところ、40人余の受験者の解答は、変更前の試験の解答が同一又は類似していたので、それらの受験者に試験問題を漏洩した者がいたことが推測できた。それらの受験者に問い質したところ、彼らはBruceと自称した人物(即ちこの事件の被告)から試験問題をもらったとのことであった。

何故被告が正式な試験問題を取得できたかと言うと、同じ月に行われた米国のTOEICと台湾のTOEICは、試験問題が同一であったが、前者は後者よりやや早く行われたので、被告は何らかの不正な手段で米国で試験問題を取得し、台湾で試験が行われる前に受験者に漏洩することができたわけである。

そして、ETSは民事訴訟を提起し、被告が試験問題の著作権を侵害したとして、被告に対し約1,300万台湾ドルの損害賠償金を請求した。第一審において、知的財産裁判所は中間判決でETSの試験問題が著作権法に保護される著作物であることを確認し、その後の終局判決で被告に著作権侵害の故意があるかどうか、負担すべき損害賠償額がどれほどか等の争点について判断した。

端的にいうと、この終局判決で、知的財産裁判所は、TOEIC試験が一般に英語力を測定する基準とされ、相当の信頼性を持ち、被告もそれを明らかに知っている(被告はかつてよい英語試験の点数を取ることでパイロットの資格を得るために、米国に赴いてTOEIC試験を受験した経験がある)としたため、被告に侵害の故意があると認定した。

また、台湾著作権法第88条第3項によると、被害者が実際の損害額を証明することが困難である場合、その侵害の情状により賠償額を酌量して定めるよう裁判所に請求することができる。この事件において、ETSが会計資料を提出し、毎年約3億米ドルを英語試験の関連業務に投入したと述べた。

これに対し、裁判所は、これらの出費のうち、どれほどがTOEICに分けられたかが不明であり、TOEICに分けられた部分のどれほどが試験問題の作成に投じられたかも不明であり、被告が複製・散布した問題も、ETSの試験問題データベースのごく一部しか占めていないとして、本件に確かに被害者が実際の損害額を証明することが困難である事情があるとし、台湾著作権法第88条第3項により400万台湾ドルの損害賠償金を支払うよう被告に命じた。

一審の判決につき、被告は控訴したが、知的財産裁判所は二審判決で一審判決を維持した。被告が台湾の最高裁判所に上告したかどうかは現段階で不明である。

上記の知的財産裁判所の判決から分かるように、権利者がその著作物で積み上げた信頼性が受けた損害、及びその信頼性を回復するために費やしたコストは、裁判所が損害賠償額の多寡を斟酌する際のポイントとなっている。この事件からは、知的財産裁判所が個々の事件の判決に損害賠償額の合理性を求めるという特性が充分に表れるが、信頼性の損害が焦点となる際の損害賠償が、他の類型の事件にどのように応用されるかについては、今後の動向に注意が必要である。

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