2015年12月、欧州議会は、1996年の欧州共同体商標の導入以来の最も重要な変更となる、一連の欧州商標法の改革を承認しました。今回の欧州商標制度の改正を定める欧州商標規則(「商標規則」)は2016年3月26日施行されました。また2016年1月13日に発効した欧州商標指令に基づき、欧州連合各加盟国は、2019年1月14日までに商標の国内法を整備しなければなりません。

今回の改革により、欧州共同体商標意匠庁から欧州連合知的財産庁へ、欧州共同体商標から欧州連合商標へと名称が変更された他、主に以下のような変更が行われます。

出願手続に関する変更点

まず、商標の定義規定として、視覚的に表示される(graphical representation)という要件がなくなりました。これにより、音や色といった非伝統的商標の登録が容易になります。また、商品と役務の指定に関しては、権利対象が容易に判断できる程度に指定商品と役務を明確かつ正確に記載することが必要とされます。改正後も、その文言が明確で正確である限りニース分類のクラス見出しを用いることも可能ですが、その保護の範囲は、見出しの文言を文字通り解釈して決定されることになります。なお、ニース分類のクラス見出しの文言で2012年6月22日以前に出願していた欧州連合商標登録については、商標規則施行後6カ月以内に宣誓書を提出することにより、指定商品役務の記載を補正することができます。また、単なる商品の性質や機能が登録されないよう商標登録絶対的拒絶理由が拡張されています。

異議手続きについて

商標の国際登録(EU指定)への異議申立て期間が実質的に短縮され(起算日が公告から1カ月)ます。先行商標の使用証拠提出に関する5年間の猶予期間の起算点も変更されます。

EU域内での法制の統一化

全ての加盟国は、各商標庁での無効・取消手続きを定める義務を負います。例えばフランスのように現在裁判手続のみで商標の登録無効・取消請求ができる国では法整備が必要になります。その他商標の普通名称化の防止措置(例えば辞書や辞典の中に商標の掲載がある場合、かかる商標が普通名称であると認識されることを防ぐために商標権者はそれが登録商標であることの記載を求めることができる)は欧州連合商標だけでなく各国の国内商標にも拡大されています。

商標権侵害への対抗措置に関する改正

改正により、EU域内で流通させる予定のない、単に通過する商品のEU域内への持ち込みや保管行為も侵害となり、税関において差し止めができるようになります。包装等に商標を付す等の準備行為であっても商標権侵害となります。また、自己の名称の使用による抗弁は個人以外は認められなくなります。これらの改正により、商標権者は、侵害行為に対してより効果的に対抗する手段を持つことができます。

手数料の変更

欧州連合商標の出願料が改正され、1区分のみの場合は850ユーロ、2区分で900ユーロ、3区分以降は1区分増えるごとに150ユーロ増えることになり、3区分以上出願すると、現行より費用が増すことになります。この改正により、必要な区分数のみ出願することで費用が軽減されます。また、更新登録料が減額されます。

これらの一連の改革により、より多くの種類の商標が登録可能となり、商標権者の権利は強化されます。他方、指定商品・役務の記載の改正点については対応が必要です。このため、欧州で商標権を有する日本企業に多大な影響があることから紹介します。

詳細は、Jones Day Commentary " Overview of European Trade Mark Law Reforms" (オリジナル(英語)版)をご参照ください。

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