権利不要求(ディスクレーム)とは、商標の構成中に識別力のない文字や図形などの要素が含まれている場合、その要素については出願人が独占排他的権利を要求しないことです。

中国では、権利不要求制度は法律等では規定されていないが、実務上は採用されています。権利不要求の根拠と見なされる条文は、以下の2つあります。

商標法第11条: 次に掲げる標章は、商標として登録することができない。

(一)その商品の通用名称、図形、規格にすぎないもの。
(二)商品の品質、主要原材料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表示したにすぎないもの。
(三)その他の顕著な特徴に欠けるもの。

商標法第59条:登録商標に、この商品の通用名称、図形、規格、若しくは商品の品質、主要原材料、機能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接に表すものを含むとき、又は地名を含むときは、登録商標専用権者は、他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。

中国における商標の実体審査は、絶対的拒絶理由の審査と相対的拒絶理由の審査に分けられています。以下は、具体的な事例と合わせて、権利不要求を宣言することにより絶対的拒絶理由と相対的拒絶理由を回避できるかどうかを検討します。

一、絶対的拒絶理由

絶対的拒絶理由の審査とは、商標が識別力を有するか、又は登録を禁止する商標に該当するかなどについての審査のことです。中国では、主に商標が『商標法』第10条、第11条、第12条違反に該当するかについて審査します。

1、『商標法』第10条1款7号違反に該当する情状

『商標法』第10条1款7号:欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすい標章は、商標として使用してはならない。

第27275011号「 1146884a.jpg」商標の拒絶査定不服審判決定書において、審査官の意見は下記の通りです。

請求商標の「腸健康直通車」はビスケットなど指定商品について使用するときに、この商品が腸の健康を促進する機能を有すると消費者に思わせやすくて、消費者にこの商品の原材料又は機能などについて誤認を生じさせやすいため、商標法第10条1款7号違反に該当する。 「腸健康直通車」については出願人が権利不要求を宣言したが、消費者にとって依然としてこの部分を商標の重要な構成要素として識別するし、他の文字と組み合わせたあとに、全体的に他の意味を形成していない。よって、請求商標は商標法第10条1款7号にいう商標として使用してはならない情状に該当する。

以上の事例から分かるように、 商標の構成中に識別力のない文字については権利不要求を宣言しても、消費者の角度からみると、消費者は、「腸健康直通車」については出願人が権利不要求を宣言したことを知らず、依然としてこの部分を商標の一部として識別しますので、誤認を引き起こす可能性は高いです。

商標の構成中に商品の内容を記述する文字については権利不要求を宣言した場合はどうですか?第29039203号「1146884b.jpg」商標の拒絶査定不服審判決定書において、審査官の意見は下記の通りです。

請求商標は「ケーキ、クッキー、穀物を主原料とするスナック食品、パン、菓子」について使用するときに、消費者に誤認を生じさせやすくなく、商標法第10条1款7号にいう情状に該当しない。 商標の文字の部分「空气蛋糕」(空気ケーキを意味する)については出願人が権利不要求を宣言したが、消費者にとって依然としてこの部分を商標の重要な構成要素として識別する。請求商標は「コーヒー、茶飲料、コンフェクショナリー、米を主原料とする膨らませた食品、アイスクリーム」について使用するときに、消費者に誤認を生じさせやすくて、商標として使用してはならず、商標法第10条1款7号にいう商標として使用してはならない情状に該当する。

この事例から、商標とその指定商品の関係から品質誤認の恐れがあるかどうかを判断されることが分かりました。商標の構成中に商品の内容を記述する文字が含まれる場合、商標をこの商品又はこの商品に関連が高い商品以外の商品について使用するときに、消費者に商品の内容について誤認を生じさせやすくて、商品の内容を記述する文字については権利不要求を宣言しても、商標法第10条1款7号の拒絶理由を回避するのは難しいです。

2、『商標法』第10条1款2号及び第10条2款違反に該当する情状

『商標法』第10条1款2号:外国の国名、国旗、国章、軍旗等と同一又は類似する標章は、商標として使用してはならない。ただし、当該国政府の許諾を得ている場合は、この限りでない。

『商標法』第10条2款: 県級以上の行政区画の地名又は公衆に知られている外国地名は、商標とすることができない。...

第27993154号「SPRADLING USA」商標の拒絶査定不服審判決定書において、審査官の意見は下記の通りです。

請求商標の「USA」の部分については出願人が権利不要求を宣言したが、消費者にとって依然としてこの文字を商標の重要な構成要素として識別する。請求商標の「USA」は米国の略称であり、使用商品について使用するときに商標法第10条1款2号にいう商標として使用してはならない情状に該当する。

第35271087号「1146884c.jpg」商標(出願人は韓国の会社)の拒絶査定不服審判決定書において、審査官の意見は下記の通りです。

請求商標の「PARIS」の部分については請求人が権利不要求を宣言したが、関連公衆にとって、それが商標の一部として商標の中にはまだ存在する。請求商標に含まれる「PARIS」はパリに翻訳でき、公衆に知られている外国地名である。請求商標の登録出願は商標法第10条2款にいう商標として使用してはならない情状に該当する。また、請求商標に「PARIS」が含まれ、指定商品について使用するときに消費者に商品の供給元・産地などの特徴について誤認を生じさせやすくて、商標法第10条1款7号にいう商標として使用してはならない情状に該当する。

以上の二つの事例からわかるように、 外国の国名と公衆に知られている外国地名については権利不要求を宣言しても、それが商標の一部として存在し、消費者が依然としてそれを商標の一部として識別します。また、出願人の住所が商標に含まれている国名又は地名と一致しない場合、消費者に商品の産地などの特徴について誤認を生じさせる可能性もあります。

一方、筆者が代理した「1146884d.jpg」商標登録出願の件において、「大阪」については出願人自ら権利不要求を宣言しませんでしたが、審査官からの審査意見書を受け、権利不要求を宣言するように命じられました。「大阪」について権利不要求を宣言した後に、商標法第10条2款違反の拒絶理由を克服できました。

この事例から分かるように、 商標に公衆に知られている外国地名が含まれ、且つこの地名が出願人の所在地を如実に表明する役割だけを果たす場合、地名について権利不要求を宣言することにより、商標法第10条2款違反の拒絶理由を回避する可能性があります。

二、相対的拒絶理由

相対的拒絶理由の審査とは、他人が先に登録・出願した商標に類似するかどうかについての審査のことです。中国では、商標法第30条と第31条に基づいて相対的拒絶理由の審査が行われています。

『商標法』第30条: 登録出願に係る商標が、この法律の関連規定を満たさないとき、又は他人の同一の商品若しくは類似の商品について既に登録若しくは初歩査定された商標と同一若しくは類似するときは、商標局は出願を拒絶し公告しない。

『商標法』第31条: 2人又は2人以上の商標登録出願人が、同一の商品又は類似の商品について、同一又は類似の商標の登録出願をしたときは、先に出願された商標について初歩査定し公告する。同日の出願については、先に使用された商標について初歩査定し公告し、他方の出願は拒絶し公告しない。

第36281749号「 1146884e.jpg」商標の拒絶査定不服審判決定書において、審査官の意見は下記の通りです。

請求商標の「Westlake」の部分については出願人が権利不要求を宣言したが、請求商標には当該文字は識別力がある要素に属し、権利不要求できない要素であるし、関連公衆が依然としてそれを請求商標の一部として識別しやすい。請求商標と引用商標第19339838号「 1146884f.jpg」には識別力のある文字「Westlake」が含まれており、且つ2商標は意味合いにおいてもはっきりした相違がないため、類似商標になっている。請求商標の指定役務と引用商標の査定使用役務は同一又は類似役務に属し、市場で併存すると、消費者に役務の供給元について混同・誤認を生じさせやすくて、商標法第30条にいう同一又は類似役務に該当する。

上記の絶対的拒絶理由により拒絶される商標と異なり、相対的拒絶理由により拒絶される商標の拒絶査定不服審判の審理において、出願人が権利不要求を宣言した場合、審査官はまず権利不要求の要素は権利不要求できるかどうかを審理しなければなりません。この要素は商品の出所を表示する役割に果たす場合、識別力を有せず権利不要求できる部分に属しません。このような場合、権利不要求を宣言したとしても、先行商標との類似を回避できません。また、商標の一部については出願人が権利不要求を宣言したとしても、関連公衆がそれに対し知らず、商標を識別する際に商標全体を識別しますので、商標の類否を判断する際に、商標全体を観察し判断すべきです。

以上の商標法の関連規定及び事例は、商標法の登録禁止の規定に該当する要素、又は他人の先行権利を侵害する要素は、権利不要求できる要素に属しないことを表明しています。これらの要素については権利不要求を宣言しても、拒絶理由を回避することができません。消費者に誤認を生じさせることを回避するために、商標の構成要素には商標法第10条に規定する使用禁止の標識、又は商品又は役務に関する品質、効能、産地などの表示を含んでないことをお勧め致します。

The content of this article is intended to provide a general guide to the subject matter. Specialist advice should be sought about your specific circumstances.